年金

「選択できる社会保障」への第一歩。小泉進次郎が「ねんきん定期便」に取り組んだ狙いとは

本格的に突入する「人生100年時代」に向けて、「65歳で定年し、年金をもらいはじめる」といった年齢による区切りが通用しない認識が浸透しつつある。実際に現在でも、公的年金の受給開始年齢は60歳から70歳の間で選択可能で、自分の判断で年金を受け取り始める時期を決めることができる。

しかし、年金加入者の誕生月に毎年届く、年金制度と納付者の数少ない接点である「ねんきん定期便」の中では、受給開始時期の選択制について、これまで触れられていなかった。その影響もあってか、無意識的に「65歳になったら仕事をやめて、年金をもらう」と考えている人が、まだまだ多いのではないだろうか。

自民党厚生労働部会長を務める小泉進次郎は、次のように語る。

受給開始時期の選択制について、(中略)情報をきちんと届けていれば、人々の行動や人生設計は変わっていたはずだ。

――2019/01/23 東洋経済ONLINE

選択肢があることを知らないまま、65歳で年金を受けとるようになって、働くことをやめてしまっている方も多いかもしれません。「ねんきん定期便」を分かりやすくすることで、自分のタイミングで仕事や余暇を選んでもらい、自分の生き方に見合った選択をしてもらいたい。

――2018/12/12 小泉進次郎Official Blog

こう意気込み、人生100年時代に見合った選択できる社会保障の実現に向けた第一歩として、「ねんきん定期便」の大きな見直しを実現した。

人生100年時代突入も、約1%の人しか選択していない繰り下げ受給

世界は本格的に「人生100年時代」を迎えており、日本も例外ではない。
先進国では1967年生まれの半数は91歳まで生きると見込まれ、1987年生まれは97歳、2007年生まれに至っては2人に1人が103歳まで生きることになると予測されている。

(参考:リンダ・グラットンが説く「人生100年時代」の働き方

政府としても「人生100年時代」を見据え、高齢者から若者まで全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題になっている。

「人生100年」が当たり前になった時代にも65歳定年制度が維持されたままだとすると、単純に残りの人生35年は仕事をせずに暮らしていくことになる。ただ、現実にはすでに65歳を超えても社会的に活躍している高齢者は多く存在し、今後さらに増えていくだろう。その場合は、受給開始年齢を70歳まで遅らせられる「繰り下げ受給」制度が存在し、繰り下げ受給した方が受けとる年金の額も増加する。しかし「繰り下げ受給」は、「ねんきん定期便」に説明が書かれていないこともあってか、70歳開始へと繰り下げている人は全体のわずか1%程度しかいない。

「ねんきん定期便」で「65歳から年金暮らし」だけではない選択肢を伝える

小泉は、自民党 厚生労働部会長に就任する以前の2016年から「人生100年型年金」を提言していたこともあり、厚生労働部会に設置した国民起点プロジェクトチームでも「ねんきん定期便」の見直しに取り組んだ。

「ねんきん定期便」は、加入者の誕生月に毎年1回ハガキなどで届き、これまで納めた金額や将来受け取れる見込みの年金額などが記載されているものだ。従来より、「分かりにくい」「字が小さい」などと意見があった。この「ねんきん定期便」は国民起点プロジェクトチームの提言により、大きく2つの見直しが行われた。

一点目は、納付期間や受給見込み額のわかりやすい訴求。書面の文字数の削減(1029から495文字)、文字サイズの拡大、図解の追加などデザインに手を加え、視覚的に見やすくした。

二点目に、繰り下げ受給・繰り上げ受給について、「受給開始年齢を選択できる」「受給を遅らせると年金額が増加する」ことを明記した。そもそも年金受給を開始する年齢は65歳固定ではなく、60歳から70歳まで自分で選ぶことができるが、現在の「ねんきん定期便」には「受給開始年齢を選択できること」の記載がなかった。

また受給開始時期を遅らせても、繰り下げ期間分の受給額が受給期間の請求額に上乗せされる仕組みであることも新たに記載。たとえば70歳からの受け取りとすると、65歳から受給を開始するよりも最大42%も受給額がアップする。自分のタイミングで仕事や余暇の時期を選ぶ人生100年時代にあたって、知らせるべき情報を伝え切っていなかったことは大きな問題であると捉え、見直しを行ったのだ。

厚労省も迅速に取り掛かり、2018年12月には、2019年4月の「ねんきん定期便」から全面改訂され発送されると発表され、スピード対応が実現した。

小泉進次郎Facebookページより
小泉進次郎Facebookページより

政治が国民に合わせ、「選択できる社会保障」を

小泉らTEAM 202Xのメンバーが2016年に発表した「レールからの解放」では、既にこう謳っていた。

「100年生きていくことが当たり前になる未来に、『20年学び、40年働き、20年休む』という人生のレールを想定していた戦後の社会保障のやり方は通用しない。しかし、かつて作られたこのレールが、今この国の閉塞感につながっている。」

従来の「ねんきん定期便」において固定的な受給開始時期や金額の通知がされていた点も、まさにこのレールに敷かれた生き方を維持することにつながってしまっていたのではないだろうか。

レールからの解放で、「高齢化、人口減少さえも強みに変える、22世紀を見据えた新しい社会モデルを、私たちの世代で創っていきたい。」と宣言していた小泉。「ねんきん定期便」の全面改訂も、国民にとってわかりやすい行政サービスを目指すとともに、来たる人生100年時代の「選択できる社会保障」の実現に向けた足掛かりとなった。