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小泉進次郎独占インタビュー - 人生100年時代の社会保障の実現に向けて

現在進行形の僕らを見てほしい

――まずは、政策実現ドキュメント・メディア「TEAM 202X」の開設おめでとうございます。

小泉 ありがとうございます。編集長の藤沢烈さんはじめ、多くの方々のご理解とご協力のもと、このような記録と発信の場を設けることができました。

――このサイト名にある「202X」の元になっているのは、2016年に小泉さんが中心となって立ち上げられた「2020年以降の経済財政構想小委員会(通称:小泉小委員会)」です。「レールからの解放」というコンセプトのもと、「人生100年時代の社会保障」や「こども保険」など、この小委員会ではさまざまな政策提言を行ってこられました。

小泉 はい。それが過去形のトピックではなく、現在進行形で動いている事実を示し、その姿を見せていくことが、「TEAM 202X」というメディアの意義だと思っています。

――あの小委員会で提言したビジョンは、のちに政府の「骨太の方針」にも盛り込まれ、内閣には安倍首相を議長とする「人生100年時代構想会議」も設置されました。

小泉 おそらく、世界の政治史においても人生を100年という単位で考え、それを「人生100年時代」という言葉にしたのは今回が初めてだったのではないかと思います。また、僕自身も昨年(2018年)10月には自民党の厚生労働部会長に就任し、「人生100年時代の社会保障の実現」に向けた政策を進めているところです。

なぜ「人生100年時代」を掲げるのか?

――そもそもなぜ、小泉さんは「人生100年時代」というキーワードを掲げているのでしょうか。

小泉 これが、僕たちの「生き方」を問いかける言葉だからです。人生70年時代だったころ、人びとは「20年かけて学び、40年間働き、残りの10年を引退期として過ごす」という人生プランのもと、生きていました。人生80年時代を超えた現在も、「20年かけて学び、40年間働き、残りの20年を引退期として過ごす」ことが前提とされています。

――社会の仕組み自体がそうなっていますね。

小泉 では、人生100年時代はどうでしょうか。「20年かけて学び、40年間働き、残りの40年を引退期として過ごす」のでしょうか。さすがに隠居生活の期間が40年だというのは、ちょっと長すぎますよね。60歳から先の40年間をどう過ごすのか。どうやって社会に参加し、健康を保ち、周囲との接点を持つのか。いまはまさに、僕たち日本人の「生き方」そのものが問われている時代なのです。

――なるほど。

小泉 少子高齢化というと、社会全体の構造的な問題というイメージがあるでしょう。でも、社会全体を考えるよりも先に「自分が100歳まで健康に生きるとしたら、どんな人生を歩みたいか」を考えてほしいのです。

――つまり、「高齢化社会の日本をどうするか」ではなく、個々人の「人生100年時代をどう生きるか」が大切なんですね。

小泉 そう。だから僕は「働き方改革」の先にあるのは、人生100年時代の「生き方改革」だと思っている。ただし、一人ひとりの生き方について、政治がなにかを押しつけることはできない。僕ら政治家の仕事は、さまざまな立場にあるさまざまな人が、自分に合った居場所を見つけて活躍できるよう、そのステージを整備すること。

――ステージを整備する。

小泉 これは、ある演出家の方に教えていただいたことなんです。たとえば高校生に演劇をやらせる。すると、どうしても明るくて元気な生徒ばかりが目立って、シャイでおとなしい生徒はうまくお芝居ができない。

――普通そうですよね。

小泉 でも、それは配役に失敗しているだけなんです。その演出家の方によると、おとなしい生徒に「静かで控えめな人」の役をやらせると、誰よりも輝くらしいんですよ。これはまさにダイバーシティで、多様な個性をもった役者がいて、多様な役があるからこそ、ひとつの作品が成立する。元気な役者も、おとなしい役者も、天使も悪魔も、ステージにはみんな必要なんです。あの小委員会で掲げた「レールからの解放」というコンセプトが示すように、人生100年時代の日本には多種多様な生き方を選択できるレールが必要だと思います。

日本という国、そして自分の可能性を信じる

――これまで小泉さんは、内閣府大臣政務官兼復興大臣政務官、自民党農林水産部会長、自民党筆頭副幹事長、そして現在の自民党厚生労働部会長と、さまざまな役職を歴任されてきました。この政治生活の中で、一貫した思いがあるとすればどんな言葉になるでしょう?

小泉 現状維持・前例踏襲とのたたかい、そして新たな可能性への挑戦です。

――具体的には。

小泉 たとえば農業。いま、農家の平均年齢は66~67歳、米農家の平均年齢は70歳で、若者が極端に少ない。

――かなり絶望的な数字に思えますね。

小泉 でも、僕は日本の農業はもっとやれると思っている。とてつもなく大きなポテンシャルを秘めていると思っている。そのポテンシャルを引き出すためには、まずは農業を「儲かる産業」にしないといけない。儲かるところに人は集まるのが、世のなかの常ですから。そのために考えるべきは、国際化。そう遠くない将来、日本の人口は1億人にまで減少し、世界の人口は100億人に膨れあがります。国内だけを見ていると縮小するばかりのマーケットも、海の向こうに目を向ければ約100倍のマーケットが広がっているわけです。

――なるほど。

小泉 ここで大切なのは、いい農作物をつくること。そして、その販路をしっかり開拓していくこと。そうすれば日本の農業は、国内市場と海外市場の両方で勝負できる。こうした販路拡大に向けた取り組みとして、昨年(2018年)には農林水産省によるGFP(グローバル・ファーマーズ・プロジェクト)という輸出プロジェクトがスタートしました。ここでの「F」はファーマー(農業)だけではなく、フィッシャーマン(漁業)やフォレスター(林業)、フード・マニファクチャー(食品加工業)も含んでいます。半年で登録者は1,000人を超えました。

――そうした「新たな可能性への挑戦」が、小泉さんの前向きな姿勢を支えているんですね。

小泉 そうなんでしょうね。僕は自分に対しても同じことを思っていますから。

――ご自身に対しても?

小泉 はい。2009年の初当選以来、よくも悪くも周囲から注目され、報道され続けてきました。なにかをやればお叱りを受け、なにもやらなくてもお叱りを受ける。ストレスがまったくないといえば、嘘になります。でも、そういう負荷がかかっているからこそ、「これだけの負荷に耐え続けた人間は、どこまで成長するんだろう?」という期待を、自分に対して持っているんです。

――まるでアスリートの発想ですね(笑)。

小泉 そこは体育会の出身でよかったのかもしれません。もしも「心の筋肉」というものがあるとしたら、僕の筋肉はかなり鍛えられていると思いますよ。どんな痛みに直面しても、「これは心の筋肉痛だ。この痛みを乗り越えたら、もっと強靱な筋肉がつくられるんだ」と思っていますから。きついけど、そういう捉え方をしないとやっていけないような環境ですからね。

――高校球児だった経験が生きているわけですね。

小泉 そう。それに、いくら負荷がかかっていると言っても、これから先にかかる負荷はこんなものじゃないとわかっていますから。いまがピークじゃなくって、登山でいえば酸素はもっともっと薄くなる。この程度のストレスで参っているようだったら、政治家なんて辞めたほうがいいと思っていますよ。それは僕だけじゃなく、「TEAM 202X」の全員にも言えること。この先、道はもっともっと厳しくなる。酸素が薄くなる。だから、いまくらいのプレッシャーなんて、口笛を吹いて歩いていけるくらいじゃないと。あっけらかんとね。

――もっと厳しい未来が、見えているわけですね。

小泉 ただし、政治の世界にはエベレストが存在しないんですよ。誰もが認める世界最高峰で、あの頂を登ったら終わりだという地点がない。どこが頂なのか、誰にもわからないんです。自分で決めるしかない。

政治家の仕事は「起こりうる未来に備えること」

――その頂のひとつとして「人生100年時代の社会保障の実現」がある、というイメージでしょうか。

小泉 そうですね。僕は講演会などの場で、よくこんなふうに訊ねます。「いま、みなさんはスマートフォンを使っていますよね? このスマホ、何年前に生まれたものか、憶えていますか?」。スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表したのが2007年。そこから10年ちょっとで、世の中はここまで変わりました。でも、ジョブズが iPhoneを発表したとき、10年後の世界がこうなると予測できた人は、ほとんどいなかったと思います。それはSNSの発達ひとつをとっても。

――たしかに。

小泉 ということは、いまから10年後の世界がどうなっているかなんて、原則としてわかるはずがないんです。しかも時代は「第四次産業革命」に突入しています。AIやIoT、ロボティクスの発展によって、ヒトとモノが直接ネットワークでつながり、人間の知性がアップデートされる「知の大革命」が待っている。スマホ誕生からの10年よりも遥かに大きな変化が待っている。10年後の世界、10年後の日本を正確に予見できる人なんて、ひとりもいないと思ったほうがいい。でも、かなりの高確度で予測できる未来が、ひとつだけあります。

――なんでしょう?

小泉 日本の人口が減っていく、という未来です。

――ああ・・・・。

小泉 そして政治家の仕事は「起こりうる未来に備えること」。人口減少社会という、確実にやってくる未来について、どのような備えを残せるか。とくに社会保障改革は政治にしかできない仕事ですから、我々政治家が責任を持ってやり遂げる必要があります。

――政治家にしかできない仕事をやる。とてもシンプルですね。

小泉 逆にいうと、それ以外のところには余白を残したほうがいい、というのが僕の考えです。よく政治家の仕事は「決めること」だと言われますが、同時に「決めすぎること」の弊害も、頭に入れておく必要がある。具体的にいえば、民間の人たちの足を引っぱるようなことをしてはいけないし、民間の人たちには政治家には思いも付かないような未来をつくっていってもらいたい。いい意味で、民間と政治が切磋琢磨できるような状況が理想ですよね。

――根底には、民間の人たちの可能性と、力に対する信頼と期待があるんですね。

小泉 そう。だって、国民のことを信用していない政治家が、国民のみなさんから信用していただけるはずがないでしょう?僕は日本という国の底力を信じているし、この国の未来を信じているし、国民を信じている。そのポテンシャルを引き出すためにぜひ、「TEAM 202X」の仲間たちと一緒に人生100年時代の社会基盤をつくっていきたい。

――大きな山が待っていそうですね。

小泉 もちろん、僕ひとりではできません。しかし、あの小委員会での激闘の日々を通じて、「TEAM 202X」という心強い仲間たちと出会うことができました。これからが楽しみですね。

――お忙しいところ、本日はどうもありがとうございました。

小泉 こちらこそ、ありがとうございました。