福祉・介護

「介護現場のペーパーレス化、書類負担ゼロへ」。介護サービスの向上を目指す小泉進次郎らの改革案とは

人生100年時代、老後を安心して迎えるためには介護サービスの拡充が欠かせない。しかし、介護サービスを提供する事業者・職員が抱える課題は多い。そのひとつに、職員が作成しなければならない書類の膨大な量、そして煩雑な処理・管理作業が挙げられる。本来、職員たちに求められるのは、サービス利用者と向き合う時間を少しでも多く設け、さまざまなケアを提供することなのだが、書類作成・管理業務に追われるあまり、介護業務が圧迫されているのだ。

この課題を改善すべく、小泉進次郎をはじめとする自民党厚生労働部会の国民起点プロジェクトチーム(PT)は、「介護現場のペーパーレス化、書類負担ゼロ」を目指し改革の提案を行った。
(参考:介護現場の書類負担ゼロに向けた改革提案 会見資料

これまで、国民起点PTでは人生100年に重要性が高まる「年金(ねんきん定期便の見直し)」「健康(健康診断の実施率ランキングの発表)
についても国民目線でスピード感を持ち、対応を行ってきた。そして今回、「介護」に切り込んだことになる。

介護現場の労働力不足が招く、負のスパイラル

少子高齢化が進展する現在、わが国の生産年齢人口は減少し、各産業における労働力不足が問題視されている。なかでも深刻なのが介護サービス分野だ。(参考:経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」

介護サービス分野の労働力が不足すると、そのしわ寄せは要介護者の家族に降りかかる。満足な介護サービスを受けられないため、家族の介護を理由とした離職(いわゆる介護離職)を招き、結果として他産業の労働者不足に拍車をかけるおそれがあるからだ。

それではなぜ、介護サービス分野の労働者不足が起きているのか。介護の現場には、どのような課題があり、負担があるのか。介護現場の職員に大きくのし掛かる負担のひとつとして、膨大な量の書類の作成・管理が挙げられる。職員が対応する書類の種類は大きく2つだ。

1つは介護施設利用者のケア記録。事業所内の職員間での情報共有を主な目的として、施設利用者の様子などを毎日記載するものだ。

2つめは自治体への補助金申請時などに行政に提出する書類だ。行政に提出する書類は、自治体ごとに文書の仕様が異なっている。複数の自治体で施設を展開している事業者にとっては、自治体ごとの仕様に合わせた書類作成が求められることになり、対応が煩雑化しているのだ。

これらの書類対応に掛かる時間負担は全業務の約13%を占め、介護サービスのメイン業務である、トイレ介助・食事介助とほぼ匹敵するとの調査結果も出ている。書類の作成・管理負担が大きく、「本来の業務である介護に手が回らない」という声もあるのが実態だ。

また、作成する書類は利用者1人当たりだけで年間500枚ほど。利用者が多い施設では段ボール数十箱分にも上る。行政などからの開示要請があった場合に備えて、施設利用者全員の書類を、過去5年分ほど保管するのが通例となっている。書類保管のために施設外に有料で倉庫を借り、本来のサービスのため以外のコスト負担を余儀なくされている事業者もある。

文書管理・申請のデジタル化/ワンストップ化で、現場目線での効率化を目指す

書類作成が大きな負担となっている現状を受け、国民起点PTでは、介護現場で働く人々の書類負担ゼロを目指すべく、介護書類の大幅な簡素化を進める提言を行った。具体的には、以下2点だ。

1点目は、介護現場のICT化・ペーパーレス化の実現。
これまで紙で作成・保管されることの多かったケア記録をペーパーレス化するために、地域医療介護総合確保基金を活用し、介護現場へタブレット・スマホ端末の導入支援を行う。このことで、手書きの労力を省くだけではなく、ケア記録を元に行う介護請求業務までを一気通貫で行える環境を整えていくことを目指していく。

2点目は、行政が事業者に求める文書仕様の、自治体間をまたいでの様式の統一。
これまで自治体ごとに異なっていた書類形式の統一に向け、国・自治体・事業者が一体となって検討を進める場を社会保障審議会介護保険部会の下に設置する。そして、従来の自治体独自の様式を撤廃する方向で年内を目処に結論を得る予定だ。

またその上で、統一された新様式への移行を進める際には、自治体への介護保険のインセンティブ交付金に反映する。さらに、将来的には、行政手続のオンライン・ワンストップ化などの合理化を進める方針だ。

介護職員の生の声に向き合い、介護現場の負担軽減に向かう

小泉をはじめとする国⺠起点PTは今回の介護現場の課題の見直しにあたって、実際に都内の介護施設で視察を行い、現場職員と意見を交わした。
小泉が「事務作業に関する負担は、この十数年間で改善されてきた印象か」と問うと、職員からは「負担軽減はされていない、むしろ年々複雑になり負担が増えている」という声もあった。

視察や、現状の報告を受けて小泉は「『人生100年時代』に向けて介護現場の負担感をなくし、人に向き合う介護本来の業務に力をさける状況を作りたい」と語った。

人生100年時代にそぐわない旧来の制度の見直しが求められる「年金」「健康
についても、これまで国⺠目線・スピード感を持ち改革を行ってきた小泉ら国民起点PT。「介護」の分野においても、老後の安心を支える付加価値の高い対人サービス提供を目指し、行政の論理ではなく、国民目線で現場の負担軽減に向けた取組みを行った。