人生100年時代の働き方を実現する「労災ゼロの推進・教育訓練給付の拡充」の狙いとは
旧来の終身雇用の元では60歳もしくは65歳になれば、定年退職をするのが当たり前だった。
しかし「人生100年時代」では、60歳・65歳を超えても働き続ける選択をする人もいる。
あるいは、一つの職業・一社の企業での仕事だけで終えるという考えもなくなりつつある。「学び直し」を通じて、より活躍できる場へのキャリアアップ/キャリアチェンジをしながら長い人生を充実させていくという考えも広がりつつある。
小泉進次郎が部会長を務める自民党厚生労働部会では、こうした人生100年時代に見合った働き方の実現に向け、6月13日に提言を発表した。
「何歳になっても安全に、より活躍して働ける社会」の実現へ
日本の高齢化に比例するように、労働力人口に占める高齢者の割合は上がっている。さらに、「70歳くらいまでもしくはそれ以上」まで働きたい、と高い就業意欲を持っている高齢者は8割近くいるという調査もある。
(参考:平成29年版高齢社会白書)
しかし、働く意欲の高い高齢労働者が「安全」に、より「活躍」して働ける環境づくりにはいくつか課題がある。
「安全」の面においては、60歳以上の労災が過去10年でおよそ1.5倍に増加している実情がある。危険の多い建設業や製造業では、もとより労災ゼロに向けた取り組みが進んでいたが、特に従事者が増えているサービス業は、高齢者の労災が2倍に増加しており、対策が急がれている。
また「活躍」の面では、「学び直し」支援が不可欠だ。高齢者に限らずとも、働く期間が長くなり、技術革新が進むこれからの時代では、新しいスキルを身につけるために「学び直し」の重要性が高まる。
これまでも「学び直し」の支援策として、資格取得の講座受講料を政府が2割~7割を負担する教育訓練給付が存在した。具体的には給付率が2割の一般教育訓練給付と、最大7割給付の専門実践教育訓練給付が存在している。しかし、前者は就職に際する即効性があまり高くないという指摘があった。後者は例えば看護師や介護福祉士など、専門的で中長期的なキャリア形成に繋がる資格だが、取得が容易ではないもので、2割・7割の給付はどちらも使いにくいとの意見が出ていた。
サービス業で「高齢者の労災ゼロ」を目指す
小泉ら自民党 厚生労働部会 国民起点PTは、厚生労働省に働きかけ「高齢者のサービス業での労災ゼロ」「学び直し支援」両課題の改善に向けて動き出した。
まず「高齢者のサービス業での労災ゼロ」に向けては、主に以下3つの取り組みを始める。
1点目は、労災防止の好事例を共有できるウェブシステムの開発。企業が講じた労災防止の好事例を、業種や事故の種類別にウェブ上で検索し、参照できるようにする。これによって各企業は、労災ゼロに向けたさまざまな取り組みを具体的に知り、自社に活かすことができるようになるだろう。
2点目は、労災防止に取り組む企業の情報を国が発信するというものだ。
「安全衛生優良企業」や「あんぜんプロジェクト」といった労働者の安全対策の取組に積極的に参加する企業が社会的に評価されるよう、厚生労働省のホームページ等に掲載する。これは労災対策に取り組むインセンティブとなるだろう。
3点目は、サービス業の企業本社に対する重点的な指導の実施だ。先の2点は優秀な取組をする企業を評価・公表する仕組みであるのに対し、この施策は対策が十分でない企業への対策強化を図るもの。サービス業のうち、労災が特に多い小売業・介護施設・飲食店等の企業本社に対して、本社主導の取組を行うよう労働基準監督署が重点的な指導を行う。
教育訓練給付を活用し、キャリア形成の充実を支援
「学び直し支援」では、教育訓練給付を活用し学び直しに挑戦する人を、現行の11万人から3年以内に22万人への倍増を目指す。
先述の通り従来の教育訓練給付は二極化していた。しかし2019年10月から、2割給付に含まれていたもので、実務に結びつきやすかったりキャリアアップに繋がりやすい講座の費用は4割給付に拡充される。(制度の改定自体は2018年10月に厚生労働省により決定済み)
加えて、この教育訓練給付を活用した学び直しの機会を周知すべく、給付制度のリーフレットを使った戦略的広報に力を入れていく。また、この制度が広く多くの人にとって活用されやすいものにするために、給付金申請時の書類の削減も実施する。
「働きたい」「学びたい」そのときに、国民が安心して選択できる社会を
小泉は、戦後 昭和から当たり前とされてきた「20年学び、40年働き、20年の老後の一直線のレールの崩壊」を主張してきた。それと同時に、多様な選択肢・働き方で100歳までの人生を国民が安心して生きることのできる、行政のあり方も模索し続けている。
「労災ゼロの推進・教育訓練給付の拡充」を目指す今回の提言も、小泉がブログで「一人でも多くの人が、学びたい時に学びやすく、自分らしく働ける環境を整える。そして、それを阻害する壁を取り払っていく。その結果として、年齢を超えて社会の支え手を増やすことができる」と語るとおり、人生100年時代に見合った選択できる働き方・生き方の提示の1つとなった。