子ども・子育て

異例の9ヶ月で凍結へ。小泉進次郎はなぜ「妊婦加算」の見直しを進めたのか

小泉進次郎Facebookページより

妊婦への手厚い診療を目的として導入された「妊婦加算」制度。しかしながらその実態は、眼科でのコンタクトレンズの処方にも適用されるなど柔軟性を欠くもので、妊婦に不利益をもたらしていると指摘されていた。

自民党厚生労働部会長に就任したばかりだった小泉進次郎は、社会全体で子ども・子育てを支えていくという政府の姿勢を明確にするとともに、丁寧な診察を行う医療機関を評価する制度を作るための前向きな仕切り直しとして、妊婦加算制度の見直しの申し出を行った。そしてその結果、厚生労働大臣より凍結が発表された。

妊婦さんに丁寧なケアや診療をしているお医者さん、医療機関に対して、前向きな評価を、ちゃんと国民のみなさんに理解をしてもらえるような形でやっていく。そのための議論と制度設計をこれからちゃんと考えましょう、というスタートが切れた。いい仕切り直しなんです。

――2018年12月25日 Buzz Feed Japan

少子化対策が必要なのに妊婦への負担を増やすことに違和感を感じるのは、当然のことだと思います。この凍結判断が、前向きな仕切り直しになると信じています。これからも、役所、仲間の政治家と協力し、国民起点でやるべきこと、変えるべきことは、スピード感を持って対応していきます。

――2018年12月14日 小泉進次郎Official Blog

妊婦加算の凍結は、小泉が自民党厚生労働部会長に就任したわずか2ヶ月後のことだった。これは、社会保障の重要性が増していく人生100年時代に向け、「社会保障への閉塞感がある中で、国民の意識と行動を変えるためには、社会保障制度をスピーディーに着実に変えていく必要がある――」
そんな決意の表れでもあったように思える。

施行期間はわずか9ヶ月。大炎上した「妊婦加算」

妊婦加算は、診療・投薬判断に注意が必要になる妊婦の外来診療について、通常よりも丁寧な診察を評価する観点で施行された。「加算」と名付けられているだけあり、診療を受けた妊婦には、診療料が上乗せされる。

2018年4月から施行されていた妊婦加算だったが、予期せぬ形で世間に注目されることになった。そのきっかけは、2018年9月頃Twitter上での妊婦加算に関するツイートが大きな物議を醸し、大炎上したことだった。

皮膚科での会計時に妊婦だとわかった途端に、『お会計変わります』と診察料が高くなった

コンタクトレンズの処方にも加算があり、納得がいかない

ただでさえ大変な妊婦に負担を増やすのか。妊婦税だ

この少子化時代に妊婦を大切にしていない

繰り返しになるが妊婦加算とは、通常よりも慎重な対応や胎児への配慮が必要である妊婦の診療時に適切な診察が行われるよう導入されたものである。
ところが、実態としてはこうだった。
特別な処置が必要と思われないコンタクトレンズの処方や、皮膚科でのイボ取りなどにも、「妊婦だから」という理由で加算された会計が提示される。診察時には何の説明もなかったものが、会計時に妊婦だと判明した瞬間に妊婦加算を加えた金額に変更されて請求される――。
妊婦への周知、医療機関への趣旨の説明、いずれも十分になされないまま、この妊婦加算制度が導入・実行された結果だった。

解決は2年後かと思われた。しかし、異例のスピードで対応が進む。

2018年10月、自民党厚生労働部会長に就任した小泉はすぐにこの問題に取り組んだ。ところが診療報酬の制度は、2年に一度の診療報酬改定時に見直しが行われるのが通例だ。妊婦加算の見直しは早くても2020年4月になると思われた。

「このまま放置するわけにはいかない」。小泉は11月29日、厚生労働省へ対応の見直しを改めて求めた。12月13日には安倍晋三首相をも巻き込む。安倍首相から日本医師会会長の横倉義武氏に連絡を取り、妊婦加算見直しの了承を得た。そして12月19日、厚生労働省より正式に妊婦加算の凍結判断が発表されたのだった。施行からわずか9ヶ月。異例のスピード感で、妊婦加算は見直しとなった。

「行政視点」から「国民視点」へ

自民党厚生労働部会長に就任後、小泉はTEAM 202Xのメンバーでもある村井英樹らとともに厚生労働部会の中に、「国民起点PT(プロジェクトチーム)」を立ち上げている。
「社会保障行政は、国民の生活に密接に関わるものなのに、分かりにくい。ユーザー目線に立って、行政のあり方を改善しないといけない。さまざまな手続きを見直していく。」こうした思いを持っていた小泉は、妊婦加算についても取り組んでいった。

国民目線で見ると違和感の大きかった妊婦加算。自民党厚生労働部会長への就任後、わずか2ヶ月で凍結に向かったことは、小泉自身が「役所、仲間の政治家と協力し、国民起点でやるべきこと、変えるべきことは、スピード感を持って対応していきます。」と述べているように、社会保障の重要性が増していく人生100年時代に向け、国民の意識と行動を変えるための第一歩だったように思える。