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編集長・藤沢烈インタビュー 「TEAM 202X」に見た日本の未来

「自分の言葉」で語る政治家が、ここにいる

――このたびは政策実現ドキュメント・メディア「TEAM 202X」の開設、おめでとうございます。

藤沢 ありがとうございます。

――このサイトの源流には、藤沢さんの書かれた『人生100年時代の国家戦略 小泉小委員会の500日』という本があります。まずはこの本が生まれた経緯から教えてください。

藤沢 まず2016年の2月に、小泉進次郎さんや村井英樹さん、小林史明さんら自民党の若手議員を中心に「2020年以降の経済財政構想小委員会」がつくられました。

――のちに「小泉小委員会」と呼ばれるようになった小委員会ですね。

藤沢 はい。このチームはその名のとおり、東京オリンピック・パラリンピック以後、2020年以降の日本社会について考える小委員会でした。「この国の未来をどうするのか」という共通の問題意識の下、およそ500日間にわたって熱い議論が交わされ、さまざまな提言を発表していきました。

――「レールからの解放」というコンセプトにはじまり、「厚生労働省分割案」や「人生100年時代の社会保障へ」などの大きな提言から、「こども保険の導入」など具体的政策提言まで、非常に刺激的な内容ばかりでした。

藤沢 でも、その中で交わされた議論はもっと熱く、もっと刺激的だった。だから「この議論そのものを発信したほうがいいよね」という話になり、私に依頼が回ってきたんです。私は民間オブザーバーとして、小泉小委員会の発足当初からほぼすべての会合に出席してきましたので。

――本を拝読するとまさにドキュメントで、それぞれの政策が生まれる過程を、議員同士の衝突も含めて克明に描かれています。一冊の本としてまとめるのは、かなり大変な作業だったと思うのですが、執筆を引き受けることに迷いはありませんでしたか?

藤沢 もちろん大変ではありましたけど、それ以上に「この現場は公表するべきだ」という思いが強かったですね。

――それはなぜ?

藤沢 私自身、「政治家にもこういう人たちがいるのか」と驚いたんですよ。この小委員会に参加するまでの私は政治家について、業界団体とつながっていたり、地元に利益誘導することばかり考えていたり、それこそ贈収賄があったりと、ネガティブなイメージを持っていました。でも、彼ら若手議員は少し違っていましたね。政治理念を持ち、「自分の頭」でものを考え、「自分の言葉」で発言し、正面から議論を戦わせていた。その意外性があったので、ぜひ多くの人に伝えたいと思ったんです。

来たるべき「2040年問題」に向けて

――小泉小委員会の中で、藤沢さん自身はどういうお立場だったのでしょう?

藤沢 たまには発言、提言することもありましたけど、基本的には観察者の立場でしたね。これはそういう役割を求められたというよりも、私の個人的スタンスなのだと思います。

――個人的スタンスとは。

藤沢 高校生のころ、私の夢は「伝記作家になること」だったんですよ。しかも亡くなられた偉人の伝記ではなく、生きている誰かの伝記やドキュメンタリーを書きたかった。もし自分が小説家になりたい人間だったら、もっと積極的に「俺の話を聞け」となったのでしょうが、私は自分よりも他人に興味があったんです。その観察者的なスタンスは、いまもずっと変わらないですね。

――だとすれば、小委員会のオブザーバーとしても、この本の著者としても、まさに適任だったことになりますね。

藤沢 まあ、それはたまたまですけど、いまにして思うと伝記作家の夢はつながっていたのかもしれません。

――もうひとつ、この小委員会の参加メンバーは、ほとんどが藤沢さんと同世代ですよね。

藤沢 そうですね。同世代の方が多かったです。

――同世代として共通して抱えている問題意識のようなものは、当初から実感されていましたか?

藤沢 ありました。いま政治の前面に立ってこの国を動かしているのは60代前後の世代。そして小泉小委員会の中心メンバーは40代前後。およそ20歳の違いがあるわけです。そうすると、たとえば東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年という年ひとつをとっても、捉え方がまったく違ってきます。

――2020年をゴールと捉えるか、スタートと捉えるか。

藤沢 そうですね。おそらく2020年を境に日本社会は劇的な変化を迎えます。「その先の社会」について、どれだけ当事者意識を持って見据え、考えていけるか。これについては、どうしても世代的なファクターが絡んでくる。個人的にいうと、私は「2040年」が大きな転換点になると考えていますが、その視点が持てる政治家はやはり40代以下になるでしょう。

――2040年、なにが起こるのでしょう?

藤沢 まず、日本の高齢者数は2040年前後にピークを迎えます。しかも2040年には最大の支え手である団塊ジュニアの世代が60代後半に突入する。全国でも半数の市町村が存続が厳しいと言われ、医療や介護の担い手がどこでも足らなくなります。人口というのは確定した未来で、たとえばこの1年の新生児の数は確定していて、20年後に20歳を迎える人の数も、もう決まっているわけです。だから、いますぐに準備に入る必要があります。

――それをやるのが「TEAM 202X」のメンバーということなんですね。

藤沢 そうですね。むしろこのメンバーにできないのだとしたら、ほかに誰ができるんだろうというか(笑)。やはり社会保障分野は政治家が取り組むべき仕事ですし、彼らはまだ「しがらみ」も少ないでしょうし、ぜひ改革を進めてほしいです。

日本に残された時間は多くない

――続いて、藤沢さんから見た「TEAM 202X」のメンバーについて聞かせてください。まず、小泉進次郎さんはどういう方だと認識されていますか。

藤沢 メディアの影響とは恐ろしいもので、実際にお会いするまでは誤解していましたね。タレント議員のような印象を持っていました。鋭い発言をされていても、勝手に「優秀なブレーンがついているんだろうな」と思ったり。

――その誤解が解けたきっかけは。

藤沢 民主党政権時代の2011年、東日本大震災が起きたあと、私は内閣官房震災ボランティア連携室に民間スタッフとして所属していました。そこで参事官の方が自民党に要望を聞きにいったところ、当時野党議員だった小泉さんが「石巻市で土嚢が不足しているから対応してほしい」と要請していたのです。それを聞いて「この人は、実際に現場に足を運んで、被災地を自分の目で見て、被災者の声を自分の耳で聴いて、いまいちばん必要なものを見極めているんだな」と気づきました。正直に言えば、当時の東北は「被災地まで行きました」という記念撮影だけをして視察を終える政治家が何人もいましたから。あそこで小泉さんへの印象が変わりましたね。まだ、直接お会いする前の話ですが。

――実際に顔を合わせてからの印象は。

藤沢 まず、あらゆる事柄についてご自身の頭で考え、決断し、言葉にされている。ブレーンの指示に従っているのではなく、「小泉進次郎の言葉」を語っている。しかも決断のスピードが速い。意外でした。

――小委員会での小泉さんは、いかがでしたか?

藤沢 多くの日本人がそうだと思いますが、小泉さんにとっての東日本大震災は「国とはなにか」とか「日本人とはなにか」という根源的な問いをもたらす大事件だったと思うのです。その後、ある種の一匹狼的な立場で奮闘していた小泉さんが、あの小委員会を通じて「チーム」を意識するようになった。個人戦から団体戦へと手法を切り替えた。その意識変革が感じられる500日でした。

――事務局長を務められた村井英樹さんの印象はいかがでしょうか。

藤沢 村井さんは、とにかく政策通で、しかも鋭い仮説を提示して、議論を巻き起こせる方。「こども保険」などが典型ですが、村井さんのアイデアから生まれたプランはたくさんありましたし、政策面での知恵袋的な存在でした。それから、小泉さんと同じく、熱い想いを持たれた情熱的な方ですね。

――事務局次長を務められた小林史明さんは。

藤沢 影の事務局長というべき、調整能力に長けた方です。あの小委員会では過激ともいえる提言をいくつもとりまとめていて、それを発信したり実現に向けて動かしていくためには、自民党内や関係省庁との折衝や調整が欠かせません。小泉さんや村井さんよりも若いのに、小林さんはそういう調整役を率先して買って出て、ある意味いちばん玄人的な役回りに徹しておられました。仮説を立てるのが村井さん。決断し、強い言葉で発信するのが小泉さん。そして裏方でプロフェッショナルな役割を果たすのが小林さん。この3人のバランスが絶妙だったように思います。

――それでは最後に「TEAM 202X」のメンバーに期待することをお聞かせください。

藤沢 日本は2020年から「次」の時代に入り、2040年に高齢化がピークを迎えます。そんな2040年に向けて、仮に2030年まで無策なまま進んでいったら、どうやっても手遅れだし、この国は存亡の危機を迎えると思います。ですから、一刻も早く、2040年を「自分ごと」として捉えられるこの世代が政治をリードし、この国を変えていってほしい。民間企業、NPO、あるいは大学など、さまざまな立場の人と連携しながら道筋をつけてほしい。

――残された時間は多くない。

藤沢 もちろんです。40代前後って、日本の政界では若手ですが、世界的に見れば中核を担う世代です。民間企業でいっても、いちばんの働き盛り。「自分に残された時間」と「日本に残された時間」の両方を意識しながら、スピード感を持って課題に立ち向かっていく必要があります。

――わかりました。ぜひ藤沢さんと一緒にこの「TEAM 202X」上であたらしい日本の動きを追って行ければと思います。これからもどうぞよろしくお願いします。

藤沢 ありがとうございました。